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JOGA
JOGA11
(2009)

東アジア・オーストラリア地域渡り性水鳥重要生息地ネットワーク(ガンカモ類)支援・鳥類学研究者グループ:JOGA
第11回集会「急増するガン・ハクチョウ・カモ類の原因や影響を巡る鳥学的課題」

講演2−1

温暖化がマガンの個体数急増に及ぼす影響

呉地 正行(日本雁を保護する会)


 日本へ渡来するマガンは、その大半が宮城県北部の伊豆沼、蕪栗沼周辺で越冬するが、1971年に法的に保護され、個体数の減少には歯止めがかかり、80年代になると漸増し。90年代には急増し、現在もこの傾向が続いている。80年代の個体数漸増の主因は、法的保護の効果と考えられるが、90年代以降の急増は、この他に個体数増加の要因が存在することを暗示している。

図1
図1.マガンの渡り経路呉地ほか,1995

 その要因として疑わしいのが、伊豆沼等へ渡来するマガンの繁殖地域の温暖化の影響である。

 伊豆沼・蕪栗沼周辺で越冬するマガンの繁殖地は、北極圏に近いロシア・チュコト地方南部のコリヤーク地区沿岸部のペクルニイ湖湖沼群周辺であることが、確認されている(呉地ほか、1995)。

 伊豆沼へ渡るマガンの繁殖地の約200北のアフタットクール川流域では春先の雪解けの進行状況が、マガンの繁殖成否に多きな影響を与え、雪解けの遅い年は、繁殖に失敗する番いが多くなり、雪解けが早まると、繁殖成功率が高まることが確認されている(A.V. Kondratyev 私信)。

図2
図2.北東ロシアの極地気象台での気温変化 [図を拡大して表示します

 「IPCC地球温暖化第2次レポート」(1996)によると、伊豆沼のマガンの繁殖地を含むベーリング海沿岸地域は、二酸化炭素の等価濃度が現在の二倍になると、そのバイオームが、現在の「ツンドラ地帯」が「北方林」を経ずに、一気に「温帯林」に変わると予測され、地球上で温暖化の影響を最も強く受ける地域のひとつと考えられている。また、実際に北東ロシアの極地気象台での1933年から2000年までの気温データを収集したところ、日本へ渡来するマガンの繁殖地を含むベーリング海沿岸域では軒並み気温が上昇していることが確認された。これらの予測や実測値からも、伊豆沼のマガンの繁殖地域が温暖化の影響を強く受け、雪解けが早まり、それが、マガンの繁殖成功率を高めて、急激な個体数の増加の要因となっている可能性が高いことを推測させる。

[JOGA第11回集会「急増するガン・ハクチョウ・カモ類の原因や影響を巡る鳥学的課題」2009年9月21日]

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URL: http://www.jawgp.org/anet/jg014b.htm
2009年9月13日掲載, JOGA