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ガンカモ類重要生息地ネットワーク支援・
鳥類学研究者グループ:JOGA
第6回集会 背景紹介

ガン類渡来地目録の編纂から10年

宮林 泰彦(雁を保護する会)

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【要旨】

渡来地目録

図1.ガン類渡来地目録第1版(宮林編 1994).

 ガン類渡来地目録の編纂の経緯とその意義,目録後の発展について簡便にまとめた.第1版の意義のひとつは,日本全国におけるガン類渡来地の状況を概括表にとりまとめて,その全体像を解析する試みをおこなったことであろう.これによって,各地で共通する課題が明らかになり,関係する各地の人々が相互に協力するといった取り組みの契機となった.
 今後の課題を明確にするためには,日本全国の渡来地の現状を集約して解析する必要があろう.さらに,この10年間に各渡来地ではどのように保全状況が進んだのか,あるいは進まなかったのか,それは何故なのかを把握し分析することも重要な示唆を与えてくれるに違いない.

【構成】

1.ガン類渡来地目録の編纂の経緯
2.渡来地目録の意義と以後の発展
3.今後の課題

1.ガン類渡来地目録の編纂の経緯

 この目録は,全国のガン類渡来地の情報を一定の形式でとりまとめ,ガン類の保護や観察にかかわる各地の人々が容易に他の地域の情報を把握することができ,また行政などの諸機関が貴重なガン類の渡来地をあらかじめ把握することにより,渡来地の生息環境の悪化を抑制し,ガン類とその生息環境の保護保全を有効に進めることに役立てようとして編纂された.

図2.目録の渡来地情報シートの例.

記載項目は,第1ページに,渡来地の名称,所在地利用形態,環境区分,出現種,出現期間,最大個体数,出現期の気象条件,渡来地の利用状況,ガン類保護に関する問題点とその現状を;第2ページには,記入者名,記入年月,連絡先,渡来地に関する文献資料名,渡来地への交通手段と利用範囲を加筆した地図を収録した.図に例は示さないが,第3ページ以降に第1,第2ページで十分に記述できなかった項目についての追加や,詳細な解説等を,執筆者に自由に記載していただいた.この例のページをhtml化したもの,ならびに記載項目の詳述は宮林ほか(1994)に収録されている.

情報シート1情報シート2

 渡来地ごとに情報をとりまとめる書式(渡来地情報シート;図2)を決め,ガン類渡来地各地の研究者や観察者のかたがたに記入していただく方法を取り,1989年から作業を開始した.1991年に,それまでに得られた22の渡来地の情報シートを暫定版にまとめ,同年11月の第8回ガンのシンポジウム(滋賀県湖北町)で議論に供された.その結果,全国の渡来地の状況を概括する必要性が指摘され,またそのための概括表のアイデアも提示された.そこで,渡来地情報シートに記述されていない点を補うために,各地にさらなるアンケート調査を実施した.こうして概括表(図3)がまとめられ,全国の渡来地51地域の情報シートとともに収録して,1994年4月に第1版(図1)を刊行することができた.

概括表1概括表2概括表3概括表4

図3.目録で全国の渡来地の状況を概括した表.

1ページ目には渡来地の位置と環境情報,2ページ目にはガン類の生息期間や生息個体数,利用状況の情報,3ページ目から4ページ目にかけて保護区の設定状況を含む保護の現状と課題について概括した.この概括表をhtml化したもの,ならびに記載項目の詳述は宮林ほか(1994)に収録されている.

2.渡来地目録の意義と以後の発展

アジア湿地目録

図4.アジア湿地目録.

 ラムサール条約の取り組みのもとに近年定義された湿地目録とは,『湿地管理に関する主要な情報を集めたもの,または一定の順にまとめたもの.〔それには〕具体的な評価およびモニタリング活動のための情報基盤を含む』(同決議 .6付属書和訳:環境省 2004)ものである.

 第1版の編纂当時,すでにアジア湿地目録(Scott 1989;図4)が公表されており,その記載項目と第1版の記載項目を整合させる必要性などの検討を行なったが,ガン類渡来地目録に収録する情報は,ガン類とその生息地の保全のために役立つ基礎情報こそが重要であり,渡来地の湿地環境のその他の基礎的な情報はアジア湿地目録等の総括的な目録に譲ればよい,そしてそれらと本目録とをリンクさせればよいのではないかと結論した.

 日本のガン類の定期的な渡来地のほぼすべてについて情報シートのかたちで掲載できたことに加えて,概括表をとりまとめて日本全国のガン類渡来地の全体像を解析する試みが,本目録のもうひとつの大きな意義であろう.これによって,各地で共通する課題が明らかになり,関係する各地の人々が相互に協力するといった取り組みの契機となった.

 第1版の編纂時の将来の課題として,次のような6つの課題をあげている:

  1. 渡来地目録の定期的な改訂と内容の充実
  2. 渡来地の法的な保護
  3. ラムサール条約とガン類渡来地の保護
  4. 極東におけるガン類生息地目録の作成
  5. 稀少ガン類の羽数回復計画とガン類渡来地の保護
  6. 他の分野の保護活動との連携

 1999年のラムサール条約第7回締約国会議の場において,「東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク」が発足し,現在までに本目録に掲載した渡来地のうち11箇所が参加している.ラムサール条約登録地も当時より2箇所増えて8箇所となっている(表1).また,2002年には「日本の重要湿地500」(環境省 2002)が選定され,ガン類渡来地の多くも選ばれた.

表1.目録第1版掲載の渡来地のうちラムサール条約に登録されているところと「東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク」に参加しているところの一覧.2004年9月現在.

  • ラムサール登録+重要生息地ネットワーク参加:
     釧路湿原,宮島沼,ウトナイ湖,佐潟,片野鴨池,琵琶湖

  • ラムサール登録のみ:
     伊豆沼・内沼,霧多布湿原

  • 重要生息地ネットワーク参加のみ:
     霧多布のうちの琵琶瀬湾,小友沼,蕪栗沼,福島潟,中海の米子水鳥公園

Wetlands in Russia

図5.ロシアの湿地目録,第3巻(Krivenko 2000).

Anatidae Atlas

図7.ガンカモ類のアトラスMiyabayashi & Mundkur 1999).ミコアイサにとって国際的に重要な生息地のリストとそれを地図上に展開した図を例示.

 1998年から2001年にかけて,国際湿地保全連合のロシアプログラムが4冊組のロシアの湿地目録を刊行した(Krivenko 1999, 2000, Botch 1999, Andreev 2001;図5,図6:ロシアの重要湿地の分布図(同プログラムHP所載)).特に第3巻のラムサール登録候補地や第4巻のロシア北東部の湿地の目録に,雁を保護する会も協力したロシア極東部での調査研究成果が活用されている.

 特定の目的にあわせて選定された湿地のリストを地図上に展開したものがアトラスと呼ばれ,水鳥のものが世界各地で刊行されている.東アジア地域では,ツル類についてChan (1999) がまとめ,ガンカモ類についてはMiyabayashi & Mundkur (1999) が種または亜種ごとに国際的に重要な生息地をまとめたアトラスを作成した(図7)→オンライン.このような取り組みは,種または亜種ごとのアプローチを考える際に有益である.

3.今後の課題

 第1版で課題のひとつにあげられた本目録の定期的な改訂はまだ実現していない.今後の課題を明確にするためには,日本全国の渡来地の現状を集約して解析する必要があろう.さらに,この10年間に各渡来地ではどのように保全状況が進んだのか,あるいは進まなかったのか,それは何故なのかを把握し分析することも重要な示唆を与えてくれるに違いない.

文献

[JOGA第6回集会「ガンカモ類重要生息地における保全状況の過去10年の進展と今後の課題」2004年9月18日]

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このJOGAページは「「東アジア地域ガンカモ類保全行動計画・重要生息地ネットワーク」公式ホームページ(http://www.jawgp.org/anet/)の一部です.2004年9月4日掲載.

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