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JOGA
JOGA11
(2009)

東アジア・オーストラリア地域渡り性水鳥重要生息地ネットワーク(ガンカモ類)支援・鳥類学研究者グループ:JOGA
第11回集会「急増するガン・ハクチョウ・カモ類の原因や影響を巡る鳥学的課題」

講演3−2

越後平野一帯におけるコハクチョウ・カモ類の個体数変動と圃場整備

渡辺 朝一


 近年,生物の生息場所として水田がたいへん注目され,更に全国で進んだ圃場整備事業によって多くの生物が減少したことが知られた.現在では,これらの圃場整備によって減少した生物群に対する研究や保全活動が活発である.
 新潟県中央部に広がる越後平野は,信濃川,阿賀野川の二大河川によって形成された広大な沖積平野であり,その一帯は日本でも有数の穀倉地帯である.この越後平野一帯は,かつては水はけの悪い湿田地帯であったが,分水路の開削,圃場整備などが進み,現在は用排水施設,農道の完備した近代的な乾田へと変貌しており,農業機械を利用した大規模農業が営まれている.そして,現在も,転作面積の拡大や秋耕の拡大など,経済情勢を反映した変化が続いており,これらの変化も水田を生息場所とする鳥類に影響を与えている可能性がある.
 越後平野一帯には,沖積地の残存潟沼や海岸砂丘の砂丘湖,二大河川などを中心に多数のカモ科鳥類が飛来し,越冬する.これらのカモ科鳥類も,水田環境の変化の影響を受けているものと考えられ,本公演では越後平野の代表種であるコハクチョウの越冬生態と圃場整備の関わりに関して紹介する.

 越後平野一帯で越冬するコハクチョウは,夜間は主に潟沼に就塒し,家族群単位でを飛び立ち,昼の間は稲刈り後の水田に小群で分散して過ごす.昼の間はあまり休息することなく終日活発に採食する.これらのコハクチョウの主な食物は水田面に散乱するイネの落ち籾,水田面に自生する越年生の草本である.
 コハクチョウの最も重要な資源であるイネの落ち籾は,水田面に多く散乱しているが,これは稲刈りにコンバインが使われるようになって量が増えたものである.また,稲刈り後の水田面に多く見られる草本植物は,スズメノテッポウ,スズメノカタビラ,タネツケバナの三種であり,これらはいずれも落ち籾に次ぐコハクチョウの食物となっている.この三種のうち,スズメノテッポウ,スズメノカタビラの二種は畑地雑草とされており,圃場整備の終了した,いわゆる乾田で増えるとされる種である.これらの種以外の,いわゆる水草や湿性植物はたいへん少ない.また,多くの区画で湛水は見られるが,全面が水面であるような深い場所はなく,ところどころに水面がみられる部分湛水である.

 これらのことから考えると,コハクチョウが利用している資源は,機械化,乾田化という農業の集約化によってあらたに生じた資源である.また,多くの区画が浅く湛水していることが,濾し取りでイネの落ち籾を採食するコハクチョウに有利にはたらいていると考えられる.実際に,コハクチョウの越冬個体数は1980年代から急増しており,これは越後平野一帯の水田地帯で圃場整備が終わり,コンバインが全域に導入された時期と一致している.すなわち,コハクチョウは農業集約化によって新たに生じたニッチを利用して越冬し,増加した鳥種であり,農業集約化によって減少し,保全が試みられている生物群とは分けて考えるのが適当であると考える.
 稲刈りの水田面を巻き起こす秋耕が行われている水田がある.秋耕された水田は,コハクチョウの重要な資源であるイネの落ち籾も,越年生の草本も,たいへん少なくなり,秋耕水田が拡大することによってコハクチョウの越冬に大きな影響がある可能性がある.今後の動向に注視が必要である.

[JOGA第11回集会「急増するガン・ハクチョウ・カモ類の原因や影響を巡る鳥学的課題」2009年9月21日]

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URL: http://www.jawgp.org/anet/jg014e.htm
2009年8月31日掲載, JOGA