ナビゲーションをスキップ
[ 重要生息地ネットワーク ] [ 日本鳥学会 ] [ 環境省「インターネット自然研究所」 ]
JOGA
JOGA16
(2013)

東アジア・オーストラリア地域渡り性水鳥重要生息地ネットワーク(ガンカモ類)支援・鳥類学研究者グループ:JOGA
第16回集会「羽田健三業績レビューと今後の展望 — ガンカモ類の形態を中心に」

講演1

羽田健三カモ科鳥類研究のレビュー

嶋田 哲郎(公財)宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)


 羽田健三は信州大学教育学部生物学教室の教授で、20世紀後半、日本の鳥類生態学の礎をきづいた研究者の一人である。羽田健三の主要な業績は、羽田健三(編)「鳥類の生活史」築地書館にまとめられ、35年間60名余による91編の論文が収録されている。その中に18編408ページからなる、羽田の学位論文「内水面に生活する雁鴨科鳥類の採食型と群集に関する研究」が掲載されている。
 羽田のカモ科鳥類の研究は、1950年から1960年代にかけてなされた。最初に、羽田は長野県下の5つの湖沼(青木湖、中綱湖、木崎湖、野尻湖、諏訪湖)に注目し、カモ科鳥類群集のすみわけについて分析した。すみわけの第一段階では、種を単位とした社会(たとえばマガモ社会、カルガモ社会)を基本に、湖沼内でそれぞれの社会が分布を違えていることを明らかにした。第二段階では、採食の場所や様式の違いによって水面採食カモ、水底採食カモ、採魚カモの3つの社会にまとめ、それら3つの社会が湖沼の生産量によって分布を違えていることを明らかにした。羽田は調査対象を西日本に拡大し、12湖沼でこの3つの社会の分布を考察した。その結果、湖沼の生産量に加え、安全性(狩猟の有無)によって3つの社会がすみわけていることを明らかにした。貧栄養で安全な湖沼には水面採食カモ、富栄養で安全度が低い湖沼に水底採食カモ、採魚カモが多く分布した。さらにすみわけの第三段階として、陸圏と水圏に分け、採食の場所や様式に日周行動の違いをとり入れて分析することで、水面採食カモは昼間水圏休息、夜間陸圏採食、水底採食カモは昼間水圏(水底)採食、夜間水圏(水面)休息、採魚カモは昼間水圏(水中)採食、夜間水圏(水面)休息にすみわけていることを明らかにした。羽田のカモ科鳥類の群集構造解析は、種を単位とした社会を基本に、採食の場所や様式、日周行動の違いによって社会をまとめ、その社会が湖沼の生産量、安全性を指標に、湖沼内→湖沼→水圏、陸圏といった生息地の広がりの中でどのようにすみわけているかを明らかにしたのである。
 次に羽田はこのすみわけを採食型という概念での説明を試みた。これは一般的な生態学的地位(食物、採食の場所や様式)に、消化器官、採食体制(筋肉、骨格)を加えた幅広い概念である。最初に、長野県下5湖で、カモ科鳥類20種、その他水禽3種、1〜36個体/種を採取して、消化管の内容物を調べた。その結果、採食の場所や様式の異なる3つの社会で食物の違いが認められ、水面採食カモでは植物質(籾、種子、草本など)、水底採食カモでは植物質、動物質(沈水植物の芽、水生昆虫、貝類)、採魚カモでは(魚類)を採食した。消化器官の体制も食物内容に対応した変化をしており、たとえば、植物食のオカヨシガモ、ヒドリガモ、ヨシガモでは小腸、盲腸が長い傾向にあり、魚食性のカモではそれらが短い傾向にあった。また、食道で草本や穀類などを貯食したり、それらや貝類などを砂嚢ですりつぶすなど、物理的消化を行う種では、食道や砂嚢が重い傾向があった。筋肉や骨格など採食体制をみると、倒立型採食と潜水型採食に大きく分かれた。倒立型が飛翔、潜水型が潜水に適したことに対応して、潜水型では倒立型に比較して、みずかきが大きく、後肢筋肉が大きく、翼の面積が小さく、胸筋が小さく、前肢骨が短く、胸骨が幅広いなどの特徴があった。
 羽田は採食の場所、様式に加えた食物、消化器官、採食体制の違いを加えた採食型という概念を打ち出した。この採食型によって整理されたカモ科鳥類社会の区分は、内水面の生物生産量を指標し、さらに群集内における食物連鎖上の位置である生態学的地位も表明する(鳥類の生活史前書き)。1960年代はマッカーサーの群集理論全盛時代で資源をめぐる種間競争による平衡状態を仮定したニッチ理論が主流であった。羽田は、前書きで適応的解析上の基本型として今西錦司(1949)の生活形社会をさらにおしすすめた採食型、と述べている。京都大学で学位を取得した羽田の一連の研究には、生活様式を基本に適応進化の観点から群集をとらえようとする今西錦司の考えが基本にあった。欧米の群集理論と別のアプローチで独創的な世界を構築したが、そのアプローチに世界が注目するのは1980年代後半になってからであった(日野 2012; 日本鳥学会100年の歴史 p.34)。

[JOGA第16回集会「羽田健三業績レビューと今後の展望 — ガンカモ類の形態を中心に」2013年9月14日]

[ 重要生息地ネットワーク ] [ 日本鳥学会 ] [ 環境省「インターネット自然研究所」 ]
Valid HTML 4.01 Transitional Valid CSS 2.1

URL: http://www.jawgp.org/anet/jg019a.htm
2013年8月22日掲載,8月27日更新,JOGA