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JOGA
JOGA16
(2013)

東アジア・オーストラリア地域渡り性水鳥重要生息地ネットワーク(ガンカモ類)支援・鳥類学研究者グループ:JOGA
第16回集会「羽田健三業績レビューと今後の展望 — ガンカモ類の形態を中心に」

講演3

化石に見る無飛翔性のガンカモ類

渡辺 順也京大・理・地鉱


 ガンカモ類(カモ科)はおよそ 160の現生種を含む非常に多様なグループであり,基本的な形態は比較的一様でありながら各々の種がその生息環境に適応し生活している.そのような環境への適応と特殊化の極端な例として,いくつかのカモ類が進化の過程で飛翔力を失った(無飛翔化)ことが知られている.無飛翔性のカモ類は現生ではわずか5種が知られるのみ(南米の Tachyeres 属の3種,オークランド諸島の Anas 属の2種)だが,化石種としてはガンカモ類のさまざまな系統から実に20種ほどが知られており,ガンカモ類がさまざまな環境に適応,特殊化し,絶滅していった様子の一端をうかがい知ることができる.
 無飛翔性の化石ガンカモ類の多くはハワイ諸島,ニュージーランド,地中海のマルタ島などの島嶼から産出している.特にハワイ諸島の更新−完新統からは現時点で少なくとも6種の無飛翔種が知られており,その形態的な特殊化の程度も著しい.このうち Thambetochen などを含む moa-nalo の仲間は重厚で縁が鋸歯状になった嘴を持ち,植物食に特化していたと考えられている.また,近年記載された Talpanas は驚くべきことに眼が退化しており,現生種では見られないような特殊な生態を持っていた可能性が示唆されている.ちなみに moa-nalo の仲間は発見当初はその大きさからガンの仲間だと考えられていたが,後に膨隆した鳴管の化石が発見されたことによりカモ類に近縁だと考えられるようになった.化石から抽出されたミトコンドリアDNAの解析によっても後者の説が支持されている.
 無飛翔性のガンカモ類の化石は日本からも産出している.群馬県の上部中新統より産出した「アンナカコバネハクチョウ」は大きくカーブした嘴と,厚い骨壁や側方に扁平な足根中足骨などの潜水適応と見られる形態をあわせ持つ奇妙なガンカモ類である.また,青森県の中部−上部更新統からも無飛翔製のカモ類が産出している.この種は同時代に北米西岸に生息していた海ガモ類の Chendytes と一見類似した形態を持っているものの,これらの2者がすでに無飛翔化した共通祖先から進化したか,あるいは独立に飛翔力を失ったかは現時点では明らかではない.
 これら無飛翔性の化石カモ類は現生種では見られないような特殊な採餌形態を持つことがあり,あたかも無飛翔化がこのような形態の特殊化を可能にしているように見える.少なくとも一部の種に見られるような極端な大型化や骨壁の肥厚は飛翔のための制約がなくなったことと関連して進化したものであろう.このような特殊化をもたらす無飛翔性の進化のメカニズムとして,古鳥類学者の OlsonFeduccia らは幼形成熟(祖先の幼生の特徴が子孫では成体まで保持されるような進化)の仮説を提唱しているが,この興味深い説についてはいまだ十分な検討がなされていない.この点を考える上では現生種の形態の個体発生や変異に関する情報の蓄積が不可欠であろう.

[JOGA第16回集会「羽田健三業績レビューと今後の展望 — ガンカモ類の形態を中心に」2013年9月14日]

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URL: http://www.jawgp.org/anet/jg019c.htm
2013年9月2日掲載,JOGA