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ガンカモ類重要生息地ネットワーク支援・
鳥類学研究者グループ:JOGA

人工衛星用小型位置送信機を用いたガン類の追跡調査と渡り経路の解明

呉地 正行 (日本雁を保護する会)

[日本標識協会1999大会シンポジウム講演要旨]

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1)ガン類への首環標識調査の成果と課題

日本および日本と関わりを持つと思われるガン類個体群への標識調査が本格的に開始されたのは,1980年代になってからである.国内では亜種オオヒシクイと亜種ヒシクイが1981/82越冬期に新潟と宮城で,マガンが1983/84越冬期に宮城で,初めて捕獲・標識された.これらの鳥には,金属足環以外に野外観察で個体識別ができる首環標識を装着し,それらを追跡・視認することにより,移動経路を調べるといった調査手法が主に用いられた.国外の繁殖地域では,捕獲が比較的容易な集団換羽中の非繁殖鳥の群れを対象とした日ロ共同首環標識調査が,種ヒシクイについては,カムチャツカ(1984年夏〜),マガンについてはアナドゥリー低地(1991年夏〜)などで断続的に行われている.その結果,国内では,多くの観察者のご協力により,数万件の情報が得られ,国内の移動経路の解明が進み,日本へ渡来するガン類が国外のどの地域から渡ってくるのかが分かるようになった.しかし,観察者が限られている国外での観察記録が極めて少ないこと,海上や長距離の移動経路についてはその情報を得ることができないこと,また繁殖地域での標識調査は,営巣地ではなく,繁殖に参加していない若鳥が集結している「換羽地」で行うため,営巣地点を特定することが困難といった課題もある.

2)人工衛星を用いた電波による追跡調査

日本へ渡来するガン類個体群の保護や管理を考える上で,これらの鳥たちの渡り経路全体を把握することは不可欠であるが,日本国外では首環標識法によりこれらの情報を得ることは不可能に近い.これらの問題を解決するために最も有効な手段と考えられるのが,電波を用いた追跡法である.特に人工衛星を用いた追跡法は最も有効な方法である.日本雁を保護する会では1992年以来,NTTや米国内務省生物調査局等の協力を得て,マガン21羽(ロシアと日本),オオヒシクイ3羽(ロシア),ハクガン6羽(ロシア)に対して人工衛星用位置送信機の装着と電波による追跡を試みている.人工衛星を用いた電波による追跡で良い成果を上げるためには,送信機の信頼性と理にかなった装着法が要求される.異なるタイプの送信機の使用,最も効果的な電波の発信間隔の検討,装着方法(首環型,ハーネス型,尾羽型)の改良等について,様々な試行錯誤を繰り返す中で,幾つかの知見と成果が得られた.ここではこれまでの調査で最も良い結果が得られた伊豆沼でのマガンへの装着例を中心にその方法と成果について紹介する.

3)伊豆沼でのマガンへの位置送信機装着による春の渡り経路の追跡(呉地他 1995)

伊豆沼や蕪栗沼を含む宮城県北部は,国内に渡来するマガンの最大の越冬地となっており,最近は60,000羽を越えるマガン群が渡来越冬する.これらのマガン群がどのような経路で宮城県北部まで渡来し,どのような経路で北帰するかについては,国内についてはこれまでの首環標識調査結果により,その概略が把握されていたが,国外での移動経路についての情報は限られていた.そこでこれらのマガンの春の渡りを人工衛星用の位置送信機を用いて追跡することを米国内務省生物調査局の John Takakawa らと共同で計画し,NTTの協力のもとに,1994年2月に伊豆沼周辺で日米共同で捕獲した36羽のマガンの内,鳥体への負担を軽減するために大型の雄10羽に送信機を装着した.送信機にはその当時最も小型だったT-2050型を用い,装着方法は米国で開発された背中型(ハーネス型)5台と日本雁を保護する会で開発した尾羽型5台を用いた.これらの内8台からは渡りの経路に関する新たな知見が得られ,これらのマガンの営巣地をほぼ特定できた.またガン類等の中型以上の鳥類への送信機装着法について多くの知見も得られた.

3−a)国内での渡り経路

送信機を装着された殆どのマガンは2月20日前後に越冬地の宮城県の伊豆沼・蕪栗沼周辺から北へ向かい,主群は2月末〜3月末は秋田県の八郎潟・小友沼に,4月〜5月初めは北海道のウトナイ湖を経て宮島沼に滞在し,その後北へ向かった.これらの国内での移動はこれまでの調査でも確認されていたが,送信機を用いた調査により更に詳細な情報を得ることができた.またこれとは別に宮城県から太平洋側を通って北海道へ直行するコースがあることも例証された.

図1(16KB)

図1.伊豆沼・蕪栗沼で越冬したマガンの春の渡り経路.人工衛星用位置送信機での追跡結果,1994年2-7月.呉地他(1995)に加筆修正.

3−b)国外での渡り経路

5月初めに北海道の宮島沼を飛び立ったマガンは,最短の大圏コースをとり,オホーツク海海上をカムチャツカ半島をめざして真っ直ぐに飛行し,それまでに予想されていたサハリンや千島列島づたいのコースをとらないことが判明した.飛行速度についての情報も得られ,5月3日の早朝に宮島沼を飛び立ったマガンは,その10時間後には宮島沼から995km離れたオホーツク海の中心域に達し,その平均飛行速度が約時速100kmであることや,一気にオホーツク海を飛び越えることも分かった.有効運なデータが得られた8羽の内,7羽は一直線にカムチャツカ西海岸をめざし,1羽はサハリンの東海岸沿いに北上した.カムチャツカ西海岸にたどり着いた後は,

  1. 半島南部からカムチャツカ川の谷沿いに半島を斜めに横断し,ハルチンスコエ湖に立ち寄るもの,
  2. 半島西海岸中部から東海岸北部へと半島を越えるもの
という2つの経路で移動した.

更にこれらのうちの3羽は約2週間後には更に北東方向へ渡りを続け,ベーリング海に面したコリヤーク高地の海岸ツンドラ地帯にあるペクルニイ湖周辺まで移動したことが確認できた.このことから,カムチャツカ半島,とりわけハルチンスコエ湖がマガンにとって重要な中継地であることや,越冬地の伊豆沼・蕪栗沼から営巣地と思われるペクルニイ湖までの距離が約3,700kmあることも分かった.

1997年8月にはロシア科学アカデミー北方生物問題研究所の A.V. Kondratyev の協力を得て,ペクルニイ湖周辺の空中からの調査を行った.その結果,同湖周辺の57地点で総計1,857羽のマガンを認め,その内の797羽が雛を含む家族群であることを確認した.このことにより同湖周辺が伊豆沼・蕪栗沼へ渡るマガンの営巣繁殖地であることが明らかになった.

文献

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国際湿地保全連合日本委員会 ガンカモ類フライウェイオフィサー 宮林 泰彦, 989-5502 宮城県 栗原郡 若柳町 字川南南町16 雁を保護する会 TEL&FAX 0228-32-2592 / E-mail: yym@mub.biglobe.ne.jp.

このページは「東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク」公式ホームページ(http://www.jawgp.org/anet/)の一部です. 1999年9月14日掲載.