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鳥類学研究者グループ:JOGA 第3回自由集会 基調報告1

カモ類の換羽と性・齢の識別について

茂田 良光(山階鳥類研究所標識研究室)

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 野生の鳥類の性と齢を正確に識別することは,ある個体群の性・齢の組成を知る上で重要である。狩猟鳥であるカモ類では,適切な狩猟の制限と管理のためにとくに重要と考えられる。日本に冬鳥として渡来するカモ類は,繁殖期の半年も前に越冬地で番が形成され,番が毎年,再形成され,雌に偏った出生地と繁殖地への固執性がある点で他のほとんどの鳥と異なっている(Rohwer, F.C. and M.G. Anderson, 1988)。そのためカモ類では,ある個体群の性・齢の比を知ることには特別な意味がある。多くの渡り鳥で性・齢により越冬分布の緯度に差があることが知られているが,カモ類でも雄がより北方で多く越冬し,北ほど番形成の時期が早いと予想されている(Rohwer, F.C. and M.G. Anderson, 1988)。また,カモ類では繁殖期に雌の死亡率が雄より高いことが指摘されている(Aldrich, J.W., 1973)。ここでは日本におけるカモ類の換羽と性・齢の識別について述べる。

 日本産カモ科(ハクチョウ類・ガン類・リュウキュウガモ類・ツクシガモ類・カモ類)の鳥類は日本全国でもっとも普通に繁殖するカルガモを含み,他の多くの鳥類と同様に成鳥の冬羽への換羽は,風切・尾羽を含む完全換羽 Complete moult であるが,幼鳥の第1回冬羽への換羽 Post-juvenile moult は部分換羽である。一方,夏羽への換羽は,第1回夏羽も成鳥夏羽もすべての種で部分換羽である。この幼鳥の第1回冬羽(第2幼羽)および第1回夏羽への部分換羽の完了後に残っている幼羽に着目することにより,幼羽の有無が判れば幼鳥と成鳥を識別することが可能となる。ここで冬羽は非生殖羽,夏羽は生殖羽である。

 カモ類は他の鳥類と異なり,一般に冬羽が生殖羽,夏羽が非生殖羽のようにみられている。しかし,近年の研究によれば,これは正しくはない。明確でない種もあるが,多くのカモ類で幼羽に第1幼羽と第2幼羽があり(Schiöler, L. 1921),この第2幼羽が他の分類群の鳥の第1回冬羽に相当する羽衣とみなされる。そのため,カモ類で一般にいわれている生殖羽の第1回冬羽は実際は,他の分類群の鳥の第1回夏羽に相当する羽衣と考えられる。同様に生殖羽の成鳥冬羽は,実際には部分換羽によって更新される成鳥夏羽と考えられる。したがって,換羽の時期は大きくずれているが,カモ類でも他の鳥類と同様に冬羽は非生殖羽,夏羽は生殖羽である。これは多くのカモ類で非繁殖期に番形成をすることから進化した適応と考えられる。多くのカモ類で第2幼羽は第1幼羽に似ているため,幼羽として単一の羽衣とみなされたことから冬羽が生殖羽,夏羽が非生殖羽という誤解が生じたのである。なお,カモ類の雛は早成性で全身が幼綿羽に覆われて孵化する。孵化時には,全身が短い第1幼綿羽に覆われているが,まもなく全身がより長い第2幼綿羽に換羽する。

 以下にカモ類の換羽様式,および性・齢の識別に有効な方法を概説する。

カモ類の換羽様式 [ ⇒ : 完全換羽  → : 部分換羽 ]

孵化から成鳥または第2回夏羽になるまでの羽衣と換羽の順序

第1幼綿羽 First natal down (Protoptile) ⇒ 第2幼綿羽 Second natal down (Mesoptile)  ⇒
⇒ 第1幼羽 First Juvenile → 第2幼羽 Second Juvenile → 第1回夏羽 First Summer ⇒
⇒ 第2回冬羽 Second Winter → 第2回夏羽 Second Summer ・・・
(第3回夏羽が成鳥夏羽の種もある。)

 カモ類の各羽衣は,他の多くの鳥類では,それぞれ第1幼羽は幼羽,第2幼羽は第1回冬羽に相当する。カモ類の各羽衣への換羽の時期と範囲は雌雄で異なるが,換羽様式は雌雄で共通である(Palmer, R.S. 1972)。

幼羽の特徴と齢の識別

 カモ類の幼羽は第1幼羽,第2幼羽とも,第1回夏羽以後の羽衣に比べ各羽毛が全般に細く短く,先端がやや尖っている傾向がある(Palmer, R.S. 1972)。これは頭羽・体羽では判りにくいが,初列風切,初列雨覆,次列大雨覆,尾羽,三列風切,肩羽で顕著である。第1幼羽と第2幼羽は類似し,区別が難しいことも多いが,第1幼羽は第2幼羽より細く短い。第1幼羽から第2幼羽への換羽は部分換羽であり,第2幼羽として新たに換羽するのは主に胸羽・体羽・肩羽と尾羽の一部,および雄では三列風切(の一部)である。第2幼羽から第1回夏羽への換羽は主に頭羽と体羽・肩羽・尾羽・三列風切の一部だけで,翼と腰は大部分が第1幼羽のまま残り,雌では三列風切の一部も第1幼羽のまま残っていることがある。

 第1幼羽か第2幼羽かが不明でも幼羽であることが判れば,齢の識別は可能である。幼羽であることがもっとも判りやすいのは尾羽と三列風切,および初列雨覆・次列大雨覆である。多くの場合,尾羽は第1回夏羽まで,外側の一部が第1幼羽のまま残っている。第1幼羽の尾羽は,先端がすり切れ,V 字形の切れ込みがある。第1幼羽の初列雨覆と次列大雨覆は第2回冬羽以後のものより細く先端はすり切れている。第1幼羽の三列風切は細く短い。雄の第2幼羽の三列風切は第2回冬羽以後のものより細く短い。

 なお,虹彩の色は第1回夏羽までは,第2回夏羽以後の個体に比べ,暗く淡い色である。

性の識別

 夏羽であれば雌雄で羽色が異なるため,第1回夏羽の個体も成鳥夏羽の個体も性の識別は,難しくない。夏羽でない場合にも翼鏡,小雨覆,中雨覆,大雨覆,三列風切には性差があり,さらに肩羽と尾羽にも性差がある種も多い。嘴と虹彩の色にも性差がある種もある。

[JOGA第3回自由集会「越冬地におけるガンカモ類の羽衣と社会行動」(その1) 2001年10月6日]

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このページは「東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク」公式ホームページ(http://www.jawgp.org/anet/)の一部です. 2001年9月17日掲載.