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JOGA

JOGA9
(2007)

東アジア・オーストラリア地域渡り性水鳥重要生息地ネットワーク(ガンカモ類)支援・鳥類学研究者グループ:JOGA
第9回集会「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップの発足と協力」
日韓のガンカモ類の共通点・特色、韓国で開催される第10回ラムサール条約締約国会議を控えて
報告3

韓国の水鳥に配慮した農法を支援する法制度1)と日本の現状

呉地 正行(日本雁を保護する会)


 韓国の水鳥に配慮した農法を支援する法制度である「生物多様性管理契約」制度は 2000年に慶尚南道昌原市(2008年ラムサールCOP10開催地)で麦栽培に対する補償制度として市当局により初めて導入され、2002年には環境部の国家政策として受け継がれ、全国に拡大してきた。

1.韓国・環境部の生物多様性管理契約制度の施行指針(2006年環境部)

1)目的
a)
渡り鳥の到来地等、生態系優秀地域で地域住民が直接参画する生態系保全活動の積極的推進と牽引。
b)
保全地域(生態系保全地域、湿地保全地域、特定島嶼地域、野生動植物保護区域、野生動植物特別保護区域)指定に際し、地域住民の行為制限への反発の緩和。
2)概要
a)
生態系優秀地域で地方自治体首長と地域住民との間で保護契約を締結
b)
契約に対し、地方自治体首長がその対価を支払う(実質的な環境直接支払い)
3)法律的根拠
自然環境保全法 第37条(1997年改定)
4)地域
14自治体18ヶ所(2006年現在)(韓国冬季鳥類同時センサス(全国 124地点(2005年))に基づき選定)

2.これまでの経緯

図1.韓国生物多様性管理契約の推移.

1)1997年8月、自然環境保全法改定によって生物多様性管理契約制度新設
2)「生物多様性管理契約施行体系に関する研究」(韓国農村経済研究院、2000年4月2001年4月)を通じて細部施行方法、基準などの計画案を策定
3)2002年 3市・郡にてモデル事業実施(国庫支援2億7百万ウォン)
4)2003年 5市・郡へ拡大実施(国庫支援5億4千2百万ウォン)
5)2004年9市・郡へ拡大実施(国庫支援7億1千1百万ウォン)
6)2005年10の市・郡へ拡大実施(国庫支援7億4千6百万ウォン)
7)2006年14の市・郡へ拡大実施(国庫支援9億1百万ウォン)

3.生物多様性管理契約の類型

区分内訳備考
耕作管理契約麦の栽培契約栽培 → 渡り鳥の餌の提供
保護活動管理契約稲の未収穫放置
稲わら放置
ねぐらの造成管理

4.生物多様性管理制度の管理、執行

1)生物多様性管理契約事業推進協議会が、事業対象地域、契約対象者、契約面積等の決定、契約金額の決定、契約金額減額の決定 契約内容の実施の確認 事業成果の評価及び分析 を行う。

2)契約内容

耕作管理契約(麦の栽培)

・契約期間:
麦の栽培期間(11月翌年4月)
・契約単価:
大麦 3,300千ウォン/㏊、小麦 3,823千ウォン/㏊、もち麦 3,615千ウォン/㏊

保護活動管理契約(農作物(稲)の未収穫放置、湛水によるねぐらの造成管理等)

・契約期間:
稲の栽培期間(5月10月),渡り鳥の越冬期間(11月翌年の4月)
・契約単価:
稲の未収穫:未収穫穀物量の販売額(8,854千ウォン/㏊
湛水等休憩場所造成:ねぐらの造成・管理費用(57万ウォン/㏊
稲わら放置:現地販売価格の 1.5倍以内

契約パートナーの遵守事項(18)(詳細略)

3)生物多様性契約の優先順位

渡り鳥関連の生物多様性契約事業の予算は限られているのに対し、農家の参加は増加しているため、効果的な運営方案が必要になってきた。昌原市ではこのような問題を解決するために住南貯水池周辺農耕地の食害範囲及び持続可能な開発計画樹立のための専門家研究(2005年)〔2004年「注南貯水地生物多様性の向上を図るための調査」〕に基づき、協約締結優先順位地域を3段階に分けて選定し、運営している【図2】。

この政策の狙いは、1)渡り鳥が安心して到来する棲息地を集中的に提供する、2)豪雪期にも渡り鳥に餌を与える事業の遂行を可能にする、3)優先順位地域を中心に渡り鳥が生息することで、他地域での食害を防ぐ、4)渡り鳥観察客にも豊かな観察対象を提供し、結果的には農村観光にも役立てることである。

【図2 生物多様性契約優先順位実施事例】
        (昌原市−注南貯水池 )

      〔優先順位〕
緑色の面:  〔一位〕;「管理地域」
黄色の面:  〔二位〕;「緩衝地域」
赤線内の区画:〔三位〕;「その他の地域」

図2.生物多様性契約優先順位実施事例. 注南 貯水池

5.生物多様性管理契約制度の成果と課題

 2000年から同事業が実質実施されている注南貯水地を例に成果と課題をまとめると以下のようになる。

〔成果〕;○農民へ直接支払いにより、渡り鳥に起因する農民の不満を和らげ、渡り鳥の生息環境を害することはなくなった。○種数の微増。個体数の増加。

〔課題〕;●補償単価の高い麦栽培に集中し、畑の麦を好む種(マガン)の割合がこの10年間で高まった ●鳥類の多様性の回復と維持に有効な冬期湛水は他の事業類型より2倍以上手間がかかるが、補償単価は一番低いので、農民が一番嫌がる ●単価の高い麦栽培に農民が集中し、契約農家数も少なく、対象面積も狭くなる。●詳細なモニタリングが行われていない(環境部による年1度の全国同時鳥類調査のみ) ●同管理契約の4つの事業類型の改善・補完の検討が必要。

〔課題の解決〕◇事業類型の過度な偏りを避けるために、2006年から事業が始まった洛東江河口では事業類型の比率を設定;麦:30%、稲わら放置:30%、冬期湛水:40%。◇農業団体も契約対象に加え、多様な事業が可能となった。

6.日本の現状


注1)これらの内容は、以下の報告を参考にして、呉地が編集したものである。

李炫周
(韓国UNDP-GEF国家湿地保全事業洛東江モデル地域管理団)(2007)韓国の環境直接支払い−生物多様性管理契約制度−昌原注南貯水地を中心とした事例−
李徳培
・朴サンヨン・姜ギギョン・朴光来・除ミョンチョル(農村振興庁農業科学技術院)(2006) 冬の渡り鳥の棲息地としての農耕地の機能に対する評価

[JOGA第9回集会「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップの発足と協力」2007年9月21日]

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URL: http://www.jawgp.org/anet/jg012c.htm
2007年9月16日掲載JOGA