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JOGA
JOGA10
(2008)

東アジア・オーストラリア地域渡り性水鳥重要生息地ネットワーク(ガンカモ類)支援・鳥類学研究者グループ:JOGA
第10回集会「ガンカモ類外来種の現状と対策及び今後の課題」

報告2

神奈川県で野生化したカナダガン大型亜種の現状について

葉山 久世(かながわ野生動物サポートネットワーク)


 神奈川県の西丹沢に位置する丹沢湖には、カナダガン大型亜種が10年以上前から住み着き、繁殖している。現在に至るまでの経緯と問題点を整理する。

1.生息しているところ

 県内では丹沢湖のみに定着。丹沢湖は人造ダム湖で1978年(昭和53年)完成。面積 2.18km2、標高 320。山梨県の山中湖までの距離は直線で約10kmあまり。

2.由来と生態

 19921993年から丹沢湖で見られるようになった。1995年には繁殖が確認され、以降個体数は毎年410羽で推移。古いフロート構造の魚礁の上で営巣している。そのほかに発見されてない巣もある。5月上旬にヒナを連れた親鳥が人のごく近くまでやってくる。
 イネ科の草を好んで食べる。丹沢湖周囲は森林で草が生えている場所はごく限られる(岸辺や法面の一部、小中学校の校庭やグラウンド、玄倉周辺のキャンプ場や施設周囲)。カナダガンが観察されるのはほとんど草のある場所かその周辺である。夕方になると飛び立ち移動する。
 ヒナ連れの親は近づく他の動物(カラス、ネコ、ニホンザル、人)にもひるまず威嚇し、撃退する。78月は姿を見ないことが多い。秋以降は警戒心が薄くなり、人に寄ってくることが多い。

3.地域との関わり

 大型の水鳥が人の近くに来ることへの素直な感動もあり、親しまれている。否定的な意見は聞かれない。フンはするが、草刈りしたようにきれいに雑草を食べるので歓迎する向き(?)もある。一方、大型亜種カナダガンについて地域の人がどの程度正しく認識しているか不明。これまで鳥に咬まれるなどの事故は起きてない。

4.人や生態系への影響

 人や生活への大きな影響は見られてない。まれに渡来する在来亜種シジュウカラガンと交雑の可能性は不明だが、ゼロではない。07−08年冬期、県央の相模川中流部にシジュウカラガンの飛来例があった。

5.行政の対応

 丹沢大山自然再生計画(2007年 神奈川県)に特定課題の事業として外来種の除去が記されている。捕獲する場合、それぞれ根拠があれば、鳥獣保護法の有害鳥獣捕獲、学術研究を目的とする捕獲、施設展示を目的とする場合の捕獲申請が可能。繁殖を妨害する場合、産卵前の巣の破壊・採取は許可なしで可能、卵の採取、擬卵とのすり替えには有害鳥獣捕獲許可が必要。

6.どうしたらいいか

  1. 捕獲して再び人の管理下に置く(飼育施設の確保が必須)
  2. 首環などで個体識別し、調査しながら繁殖妨害もする
  3. エサ場を管理し、採食に不適な植物に置き換える
  4. 啓発・普及・環境教育

 丹沢湖からの除去だけで、問題は解決するわけではない。分布拡大を止めるためには隣接自治体間の広域的な対策が重要。

7.最後に

 飼育動物の野生化問題は法律の狭間にある。外来生物法によって侵略的な種が特定外来種に指定され、被害がなくても絶滅をゴールにした捕獲が可能になった。大型亜種カナダガンは同法で要注意外来種に指定されたが、外来種としては全く縛りがないままだ。生物多様性保護のために、「特定外来種」以外の外来種にも野生化予防を含め、何らかの法の網をかけることが必要と考える。個体数が少ないうちこそ少ない費用と手間で対応できるはずだが、鳥獣保護法では、人や農林業への明確な被害や生態系への影響を証明しないと対応できず対策や取り組みを困難にしている。動愛法は人の管理下にある動物を対象としている。たとえ、不適切な管理が原因でカナダガンが逃げた事実があったとしても所有者を特定できなければ責任を追求できない。
 防除の計画を作る場合には、地域の人の理解と協力と参加を求めるべきだろう。同時に再発防止ための教育も欠かせない。法のワクと地域の合意が得られたならば、ガビチョウやソウシチョウ、アライグマに較べて捕獲はそれほど難しくないところがせめてもの救いだろうか。

参考資料

久米宗男さんHP
 神奈川県で観察されたシジュウカラガン http://homepage3.nifty.com/Kume/goose/otherarea.html
雁を保護する会HP
  http://www.kt.rim.or.jp/~hira/jawgp/jawgp/index.html
聞き取り
 丹沢湖ビジターセンター 三保小学校
丹沢大山自然再生計画
 平成19年 神奈川県
世界の動物 分類と飼育
1980 (財)東京都動物園協会

[JOGA第10回集会「ガンカモ類外来種の現状と対策及び今後の課題」2008年9月13日]

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URL: http://www.jawgp.org/anet/jg013b.htm
2008年8月11日掲載,9月9日更新,JOGA