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JOGA
JOGA13
(2010b)

東アジア・オーストラリア地域渡り性水鳥重要生息地ネットワーク(ガンカモ類)支援・鳥類学研究者グループ:JOGA
第13回集会「希少亜種シジュウカラガンと大型外来亜種カナダガンをめぐる最新報告」

講演1

似ているけれど違うのです 〜希少亜種シジュウカラガンと大型外来亜種カナダガンの見分けと問題点の整理〜

呉地 正行(日本雁を保護する会)


)亜種シジュウカラガンとはどのようなガンか

図1
図1.シジュウカラガン Branta. canadensis leucopareia を含むカナダガン Branta. canadensis の亜種別繁殖地の分布Delacour (1954)Palmer (1976) より作成.

 シジュウカラガン Branta canadensis leucopareia はカナダガン Branta canadensis の1亜種で、かつては日本と米国西海岸で多数が越冬していた。
 カナダガンは、北米北部に広く繁殖分布し、黒い首と、白い頬を持つガンの一種で、地域ごとに大きさ、体色などが異なる、8つのグループ(亜種)に分化している(1)(図1)。
 これらの中で、大型の亜種は最も南で繁殖し、日本を含め各国で外来種として問題となっているオオカナダガン(B. c. moffitti)もその一つである。その北の内陸部と沿岸域では中型の亜種が繁殖し、さらに北の沿岸域や島々では小型の亜種が繁殖している。この小型亜種のうち、アリューシャン列島と千島列島の島々で繁殖していたのがシジュウカラガンである。このシジュウカラガンの内、アリューシャン列島の繁殖していた群れは米国西海岸へ渡り、千島列島で繁殖していた群れが日本に定期渡来していたと考えられている。日本へ定期的に渡来するのはシジュウカラガンだけで、しかもこの群れは、カナダガン全体の中で、唯一アジア地域で繁殖、越冬する個体群でもある。シジュウカラガンは、カナダガンの中ではヒメシジュウカラガンに次いで小さい。その体重は最大のオオカナダガンの1/4程しかなく、その鳴き声も大型亜種の低く鳴り響くような「ホーンク・ホーンク」に対して、「キャク・キャク・キャク」と子犬のような甲高く、はっきりと異なっている。ガン類全体の中でも小型のガンに属している。マガンよりも一回り小さく、他の亜種との外見上の際立った違いは、頭頂部が平らで頭部が四角に見え、また首の付け根には殆どの個体に明瞭な白い首輪が現れることで、この2点で大多数の個体を野外でも識別することができる(2)
 なお、シジュウカラガンは日本のみならず、世界的に絶滅の恐れがある種(亜種)を扱うIUCN(国際自然保護連合)のレッド・リストにも記載されている(3,4)

)カナダガンという名称について

 日本鳥類目録では, シジュウカラガンという和名は種名 Branta canadensis と亜種名 B. c. leucopareia の両方に用いられている(5)。このことがしばしば混乱を引き起こす原因になっている。 この混乱を防ぐために、ここでは種名 B. canadensis を“カナダガン”と呼び, 絶滅が危惧される亜種 B. c. leucopareia だけを“シジュウカラガン”と呼ぶことにする。日本で記録されている在来のカナダガンの亜種は、小型の亜種に属するシジュウカラガンとヒメシジュウカラガンだけだが、最近は国外から持ち込まれ、国内で繁殖を開始した「外来亜種」の大型のカナダガン(亜種オオカナダガンの可能性が高い)が増加し、富士山麓を中心に、西は長野県、東は宮城県の範囲で観察され、「シジュウカラガン」として記録報告されることが多くなった(6)。一方亜種シジュウカラガンも回復計画の成果もあり、野生個体も放鳥個体も増加傾向を示し、特に放鳥個体の場合、観察地域が広がり、外来亜種との生息域が重なるのも時間の問題になってきた。実際に千葉県の手賀沼では大型のカナダガンが定着し、その一方で印旛沼や木更津市にはシジュウカラガンの飛来が確認されている。また国内最大のガン類の生息地で、野生のシジュウカラガンの越冬地でもある宮城県蕪栗沼でも2007/08越冬期に初めて大型のカナダガンが観察されており(戸島私信)、希少亜種と外来亜種の混乱を避け、希少亜種と外来亜種のそれぞれの動向を的確に把握していくためにも、早急に和名の整理をする必要がある。
 なお、米国鳥学会(American Ornithologists' Union)は、2004年にカナダガンを二つの種に分類し、大型亜種は Canada Goose Branta canadensis に、またシジュウカラガンを含む小型亜種は Cackling Goose Branta hutchinsii としてそれぞれ別種として扱われるようになった。この分類は2005年には、英国鳥学会(British Ornithologists Union)でも採用され、IUCNの Red List(2007)でもこの分類が採用されている(4)
 現在各所で見られる在来の希少亜種であるシジュウカラガンと、外来亜種の大型カナダガンの無用な混乱を回避するためにも、日本でも速やかにこの分類の採用を検討すべきである。

参考文献

  1. Palmer, R.S. (ed) 1976. Handbook of North American Birds. vol.2. Yale Univ. Press, New Heaven.
  2. 日本雁を保護する会.1994.カナダガンの野外での亜種識別のために.GOOSE STUDY No.6: 88-90
  3. 亜種シジュウカラガンのRDBでの記録
    http://www.biodic.go.jp/rdb/rdb_top.html[環境省生物多様性センター]
  4. BirdLife International. 2006. Branta hutchinsii. 2006 IUCN Red List of Threatened Species. www.iucnredlist.org. Retrieved on 12 May 2006. In: http://en.wikipedia.org/wiki/Cackling_Goose
  5. 日本鳥類目録編集委員会(編).2000.日本鳥類目録改訂第6版,日本鳥学会,帯広.
  6. 要注意外来生物リスト:シジュウカラガン大型亜種
    http://www.env.go.jp/nature/intro/1outline/caution/list_ho.html[環境省]

[JOGA第13回集会「希少亜種シジュウカラガンと大型外来亜種カナダガンをめぐる最新報告」2010年9月18日]

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URL: http://www.jawgp.org/anet/jg016a.htm
2010年8月28日掲載,JOGA