ナビゲーションをスキップ
[ 重要生息地ネットワーク ] [ 日本鳥学会 ] [ 環境省「インターネット自然研究所」 ]
JOGA
JOGA13
(2010b)

東アジア・オーストラリア地域渡り性水鳥重要生息地ネットワーク(ガンカモ類)支援・鳥類学研究者グループ:JOGA
第13回集会「希少亜種シジュウカラガンと大型外来亜種カナダガンをめぐる最新報告」

講演2−1

最新!神奈川県における大型外来亜種カナダガン対策と今後の展開
〜対策の概要と博物館としての取り組み〜

加藤 ゆき(神奈川県立生命の星・地球博物館)


大型外来亜種カナダガンの生息状況

写真1
写真1.2005年5月18日丹沢湖にて2羽のヒナを確認

 1980年頃から、亜種シジュウカラガン(以下シジュウカラガンと呼称)と明らかに体の大きさや形態が異なる個体が、静岡県や山梨県で一年を通して観察されるようになった。近年は、40ケ所60羽程度が報告され、各地で繁殖も確認されている(呉地正行氏 私信)。
 神奈川県の初記録は、1988年3月に相模川河口で観察された7羽である。県西部に位置する丹沢湖では,1993年5月に初めて記録され, 1995年には成鳥2羽とともにヒナ2羽も確認された。その後,数羽から十数羽が季節を問わず報告され、数年おきに繁殖も確認されている(写真1)。
 これらは、羽の色やくちばしの形、体の大きさなどから、アメリカ北部に広く分布する大型の亜種カナダガンまたは亜種オオカナダガンだと推定されている(以下カナダガンと呼称)。
 なお、カナダガンは「シジュウカラガン(大型亜種)」として法規制を受けない要注意外来生物にリストアップされている。生体の放野や移動が法律によって禁止されている特定外来生物に指定されなかったのは、被害例が報告されていないからだ。つまり、在来亜種と交雑する可能性が危惧されるものの実例がないこと、海外では飼育由来の留鳥化したオオカナダガンが増加した地域で、草地の過食、水草への食害、水際の土壌流出などが問題となっているが、日本では確認されていないことが大きな理由のようだ。

対策をすすめるきっかけ

 2008年12月には神奈川県の中央を流れる相模川で、シジュウカラガンが確認された。30kmほど離れた丹沢湖には複数のカナダガンが周年生息しており、ニアミス発生か!と心配したものの、幸いなことに両者の接触は確認されなかった。
 この事態を受け、県内の保護団体や研究者が話し合った結果、丹沢湖に生息するカナダガンを外来生物拡散防止のための「予防原則」にのっとり、早急に対処する必要があるということで意見がまとまった。そこで、捕獲チームを編成、丹沢湖に生息するカナダガンを全数捕獲し、動物園などの飼育施設へ移送して、詳しい生態情報を収集する、という計画を進めることにした。

実施前の準備

 今回の対策をすすめるにあたり、一番配慮をしたのが、「駆除=殺処分」をしないということである。そのため、捕獲個体の飼育施設を確保が急務だったが、これは、横浜市立野毛山動物園と福岡県にある国営公園海ノ中道海浜公園が引き受けてくれることになった。
 次に、捕獲時期や手法を決めるために、丹沢湖での生態情報を集めた。これまでの調査データや丹沢湖ビジターセンターへのヒアリング、日本野鳥の会が行った事前調査をもとに、最新の情報をまとめた。捕獲手法は、「日本雁を保護する会」の呉地正行氏に現地を見ていただき、検討を行った。
 カナダガンは外来生物とはいえ、自然下に生息しているため「野生鳥獣」として扱われている。そのため、鳥獣保護法に基づいた「捕獲申請」が必要となる。今回、丹沢湖に生息している全数11羽の捕獲・動物園への収容を神奈川県へ打診したが、難しいとの見解を得た。そのため、研究項目を整理し、丹沢湖に生息している11羽のうち、7羽を捕獲後、動物園で飼育、飼育下での生態情報を収集する。残る4羽は個体識別のための足環を装着し放鳥、野外での生態調査、特に利用環境や他地域との交流実態について、博物館が主となって調査を行う、という2本立ての内容で申請した。

捕獲作戦の実行

 2010年2月13日朝、雪が降るなか、横浜市の動物園3園、かながわ野生動物サポートネットワーク、日本野鳥の会神奈川支部、そして生命の星・地球博物館のスタッフからなる捕獲チーム6人が丹沢湖に集結し、山北町立三保中学校にいた4羽を捕獲、すべての個体を野毛山動物園へ移送した。2月22日には、再び捕獲チーム12人が集まり、三保中学校で1羽、玄倉で4羽を捕獲、そのうちの3羽を野毛山動物園へ移送、残りの2羽に足環をつけた後、DNA解析用の羽毛を採集して放した。あと残り2羽が生息しているはずだが、2010年8月現在、確認されていない。

博物館としての取り組み

写真2
写真2.2010年6月2日丹沢湖にて足環付個体2羽を観察.手前の個体が食べているのはアヒル用にまかれたドッグフード.

 現在、月に2〜3回程度、丹沢湖へ出かけ、個体ごとのエサ内容や利用環境、人間への警戒程度など、主に目視で調査を行っている(写真2)。その結果は、ミニ展示で公開したり、講座などで子どもたちに「外来生物とは何か?」について考える教材として利用したりしている。特に展示については、夏季休業や春秋の遠足シーズンには多くの来館者があり、「外来生物問題」を考えるよいきっかけになったのではないかと考える。
 また、捕獲後、関係団体やビジターセンター、地元の自治体や小中学校に対し、今回の作戦の経緯や概要をポスターやチラシ、メールなどで知らせ、野外での観察記録の提供をお願いしている。現在、少しずつだが情報が寄せられている。その情報は、提供者の許可を得て、ホームページにて公開している(http://www013.upp.so-net.ne.jp/crane/)。

[JOGA第13回集会「希少亜種シジュウカラガンと大型外来亜種カナダガンをめぐる最新報告」2010年9月18日]

[ 重要生息地ネットワーク ] [ 日本鳥学会 ] [ 環境省「インターネット自然研究所」 ]
Valid HTML 4.01 Transitional Valid CSS 2.1

URL: http://www.jawgp.org/anet/jg016b.htm
2010年9月4日掲載,JOGA