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ガンカモ類重要生息地ネットワーク支援・
鳥類学研究者グループ:JOGA 第5回自由集会 事例報告2

マガンの分布とフライウェイ〜現状把握とデータの活用

牛山 克巳(美唄市役所・Goose Project

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【要旨】

現在、東アジアにおけるマガンのフライウェイに関する情報の不足から、個体群構造を明らかにし、生息地間で保全管理目標を共有することができないでいる。本発表では、標識情報等から、日本国内におけるマガンの生息地間の移動がどこまで解明されているかを整理し、今後の研究課題を整理する。

【構成】

1.なぜフライウェイを明らかにしたいのか?
2.春の渡りルート
3.標識情報の活用
4.今後の課題


1.なぜフライウェイを明らかにしたいのか?

フライウェイを明らかにする目的は、「個体群」の構造を明らかにし、個体群の保全管理方法を、各々の生息地内だけではなく、フライウェイ単位で考えることにある。

個体群の保全管理はフライウェイを単位とする必要がある。渡り鳥の場合、ある生息地の環境の変化の影響はフライウェイ上の他の生息地にまでおよぶ。個体レベルでは、越冬地や中継地における脂肪蓄積が繁殖地における生存率や繁殖率への影響などがあげられるが、これらの影響が長期に渡って継続すると、その影響は群集レベルにまで及ぶ。例えば、越冬地の農地化によって個体数が爆発的に増加したハクガンの場合、越冬地の環境変化が繁殖地の植生破壊を及ぼした(Ben-Ari 1998)。

個体群構造を明らかにするには、フライウェイを明らかにするとともに、フライウェイ間の個体の交流を明らかにする必要がある(基調報告を参照)。ガン類は、渡りルートや渡り戦略を環境条件等の変化に応じて変化させることが多く(Sutherland 1998)、また、マガンの場合、繁殖地を別にする個体群が中継地で合流したり(Ely & Takekawa 1996)、逆に、繁殖地が同じでも越冬地の広い範囲に分散する例が報告されている(Straud 1983)。

これらより、上記ふたつの目的を果たすためには、個体のフライウェイ利用を支配するメカニズムと、個体のフライウェイ利用が個体群に及ぼす影響を明らかにする必要があると考えられる。そのためにも、現時点におけるマガンのフライウェイに関する情報を整理し、今後の調査や分析方法を検討する必要がある。

2.春の渡りルート

Figure (29KB)
図1.マガンの国内における移動経路。実線は衛星追跡によって明らかになった経路を示し、破線は標識情報などによって示唆された経路を示す。

Figure (26KB)
図2.衛星追跡調査によって明らかになった宮島沼からの北上経路。Takekawa等(2000)と、樋口・佐藤等(未発表)に基づいて作成した。
 

国内で越冬するマガンは、大まかに宮城県、北陸、山陰で越冬する集団にわけられる。そのうち、宮城県で越冬する集団についての情報がもっとも充実している。呉地(1986)は、マガンと共に行動する稀少ガンや首輪標識鳥の動向と飛翔中の群れの観察から、宮城県で越冬する集団のフライウェイを整理した。それによると、大半のマガンは「伊豆沼―八郎潟―ウトナイ湖―石狩平野(宮島沼)」というルートをたどるが、伊豆沼をでて北上川を北上しウトナイ湖にいたる集団や、ウトナイ湖より東に向かい生花苗沼にいたる集団もいることが示された。また、生花苗を経た集団は、千島列島沿いに北上する可能性も示された。

近年、個体に衛星発信機を装着することにより、宮島沼を経たマガンの渡りルートが解明された。Takekawa等(2000)によると、8羽の内7羽は宮島沼からカムチャツカ半島に到達したが、1羽はサハリンを北上したところで情報が途絶えた。また、樋口・佐藤等(未発表)によると、サハリンを北上した個体に加えて、サハリン南部を経由してカムチャツカに到達した個体があった。

北陸や山陰で越冬する集団については、宮城の越冬集団とは異なるフライウェイを持つ可能性が示唆されている。島根県では、宍戸湖を出発したマガンが日本海を北上する様子が継続して観察されている(ホシザキグリーン財団 1997, 2003)。また、石川県片野の鴨池では、他の地方で観察されていない雑種マガン(山本 私信)や標識ハクガン(福井県 1999)が継続して観察されている。しかし、石川県では宮城県で標識したN34が観察されたこともあり、宮城越冬集団との交流が示唆されている。

3.標識情報の活用

標識情報は、個体のフライウェイだけでなく、マガンの渡り生態や生活史パラメータについて非常に多くの情報を提供してくれる。国内では幸いなことに、雁を保護する会、雁の里親友の会、生息地ネットワーク等の観察網と、環境省インターネット自然研究所のデータベース(IISS)が充実している。そこで、130個体の標識鳥の4053記録を使って、データ構造の分析、個体の渡り戦略の類型化、生活史パラメータの推定を行った。

4.今後の課題

日本国内におけるマガンの越冬集団は大きく3通りにわけられることを紹介したが、このうち宮城県越冬集団については、十勝川下流域からの国外へのルートが明らかにされていない。また、十勝川下流域と宮島沼を中継地とする集団の交流についても明らかにされていない。北陸と山陰で越冬する集団については、北海道を経由せず、日本海を北上する可能性が示唆されているが、その実態や他集団との交流については明らかにされていない。今後、標識鳥を増やす努力を、上記の不明点に答える形で進める必要がある。また、現在ある標識情報をふくめ、渡り戦略の類型化や生活史パラメータの推定を定量的に進める方法を検討する必要があると考えられる。


【謝辞】

本発表をまとめるにあたり、以下の方々に貴重な情報を提供いただいた。久保清司、越智仁司、呉地正行、宮林泰彦、嶋田哲郎、梅木賢俊、富川徹、山本浩伸、川崎康弘、遠藤美浩、長谷川富昭、諸橋仁美、草野貞弘、森茂晃(順不同、敬称略)。この場をかりて御礼申し上げる。

引用文献

[JOGA第5回自由集会「極東におけるガン類・ハクチョウ類個体群フライウェイ解明のための課題」 2003年9月22日]

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2003年9月26日掲載.